「LUMIX S9」は、パナソニックのフルサイズミラーレスカメラ「LUMIX Sシリーズ」の新モデル。小型・軽量化を徹底したコンパクトボディが特徴で、スナップ写真で作品作りをしている筆者にとってとても相性のよいカメラだ。
今回紹介したいのは、「LUMIX S9」とパンケーキレンズ「LUMIX S 26mm F8」の組み合わせ。台湾で撮影してきたスナップ写真をご覧いただきながら、このフルサイズシステムをレビューしよう。
電子ビューファインダー(EVF)を省略するなど割り切った仕様を採用した「LUMIX S9」。シンプルなフラットデザインも特徴だ
総重量約544gの軽量システム
「LUMIX S9」は、フルサイズ機としてはかなりコンパクトなカメラだ。グリップや電子ビューファインダー(EVF)を省略し、さらにメカシャッターレスにすることで、約126(幅)×73.9(高さ)×46.7(奥行)mm/重量約486g(バッテリー、SDメモリーカードを含む)の「LUMIX Sシリーズ」史上最小・最軽量ボディを実現している。
このコンパクトボディにベストマッチなのが「LUMIX S 26mm F8」。マニュアルフォーカスのみ、絞り値はF8固定というユニークな仕様のパンケーキレンズで、全長は約18.1mm、重量は約58g(リアキャップを含まず)に抑えられている。非常に薄くて軽いレンズだ。
「LUMIX S9」に「LUMIX S 26mm F8」を装着したときの総重量は約544g。小さなカメラバッグの中に入れて負担なく持ち運べる重さだ。このサイズ感でフルサイズの画角と画質を楽しめるのは大きな魅力である。
「LUMIX S9」と「LUMIX S 26mm F8」の組み合わせは、被写体に威圧感を与えないサイズ感なので、街中でのスナップ撮影がやりやすい。できる限り荷物を減らしたい旅行とも相性がよいセットといえよう
さまざまな絵作りが楽しめる「リアルタイムLUT」
「LUMIX S9」の機能では、「リアルタイムLUT」というパナソニックの独自機能に注目してほしい。この機能は、動画編集でよく使われるLUT(Look Up Table、色設定を定義したファイル)をカメラに登録して、写真でも動画でもさまざまな絵作りを楽しめるというものだ。
「LUMIX S9」の「リアルタイムLUT」には3つのSmaple LUTが搭載されているが、まずはその3つを使いこなすだけでも十分に楽しめる。スマートフォン用のアプリ「LUMIX Lab」を使用すれば、いろいろなクリエイターのLUTをダウンロードしたり、アプリ上でLUTを自作したりできるので、「リアルタイムLUT」の楽しみ方が広がる。
「Sample LUT2」を使って撮影
「Sample LUT2」は、全体的に青味が追加されて光が引き立つ印象。差し込んだ光をさわやかに表現できるので、透明感を出したいときなどに使用するとよいだろう。
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/200秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:Sample LUT2
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/200秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:Sample LUT2
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/125秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:Sample LUT2
「Sample LUT3」を使って撮影
「Sample LUT3」は、青や赤やオレンジなどが独特な色になるため、異国の雰囲気をより強調したような仕上がりになった。ティール&オレンジのような効果を得ることができる。
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/100秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:Sample LUT
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/100秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:Sample LUT3
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/160秒、ISO100、-0.7EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:Sample LUT3
サイズからは想像できないくらいよく写る「LUMIX S 26mm F8」
「LUMIX S 26mm F8」は、前面の「LUMIX」とレンズ名の刻印が色入れされていない。細かいところだがこのレンズのユニークな点だ
「LUMIX S 26mm F8」で撮影してみて驚いたのは、ボディキャップレンズのような薄い筐体ながら高い描写力を兼ね備えていること。
初見ではとにかくコンパクトさを重視したレンズかと思ったが、撮影した写真を見返してみると、被写体のディテールをしっかりと描写しているうえ、ボケの質もよく、十分に作品を撮れるレベルのレンズだと感じた。これは、UEDレンズを含めた5群5枚のレンズ構成によって各種収差を抑えているのが大きいのだろう。
以下の掲載する作例でその写りのよさを確認してほしい。
遠景は中央も周辺もシャープ
遠景を撮影した写真を等倍で確認してみると、ビルのディテールをしっかりと描写していることがわかる。画像周辺でも中央部分と変わりがないくらいクリアでシャープに写っている印象だ。
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/320秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:スタンダード
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/250秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:スタンダード
近景は細かいところまでよく写る
近景でもしっかりと写るレンズで、以下の写真ではレンガの細かいところの質感がしっかりと描写できている。リアルな質感が伝わる1枚だ。
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/125秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:スタンダード
最短撮影距離付近ならボケも楽しめる
焦点距離26mmで絞り値がF8固定なのでぼかしにくいレンズではあるが、最短撮影距離(0.25m)付近まで被写体に近づくとボケを生かした表現も楽しめる。ピント面のシャープさがありながらも、背景のボケは素直な印象だ。
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/125秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:Sample LUT3
26mmのワイドな画角を生かす
焦点距離26mmの広角を生かして、広い範囲を1枚の写真にフレーミングしてみた。手前の自転車を主被写体にしながら、背景の看板やトラックの配置を気にしながら構図を決定した。
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/160秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:Sample LUT3
遠近感を強調できる
被写体にぐっと近づきながら撮影することで遠近感を強調した写真になる。この写真はバイクのミラーに寄って撮影しているが、ピントはミラーの中の写り込みに合わせている。写り込みの世界だけでなく、背景をバランスよくフレーミングすることで、道の奥行き感が伝わる1枚に仕上がった。
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/160秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:Sample LUT3
「LUMIX S 26mm F8」の使いこなしのコツ
最後に、「LUMIX S 26mm F8」を使ううえで知っておきたい使いこなしのコツを2つ紹介しよう。
「LUMIX S 26mm F8」はフォーカスリングを手動で動かしてピント合わせを行うMFレンズだが、フォーカスリングには最短撮影距離(0.25m)と無限遠しか表記されておらず、回転角も狭い。その点をネガティブにとらえるかもしれないが、焦点距離26mmの広角で絞り値がF8固定というスペックを考えると、実に理にかなった設計と言える。そもそもの被写界深度が深いので、厳密なピント合わせが必要なく、おおざっぱに操作しても大体ピントが合うのだ。この特徴を踏まえてコツを紹介したい。
「LUMIX S 26mm F8」のフォーカスリングは、最短撮影距離(0.25m)と無限遠のみの表記。回転角が狭いため、マニュアルフォーカスながらも速写性が高いのがスナップ撮影では使いやすい
1つ目のコツは近接撮影時の使いこなし方だ。被写界深度が深いとはいえ、さすがに近接撮影時はピント位置がシビアになるので慎重に合わせるようにしたい。そこで活躍するのが、「LUMIX S9」など「LUMIX」シリーズが搭載するMFアシスト機能。ピントを合わせたいところをダブルタップすると画面が自動的に拡大表示されるのが便利だ。拡大表示は全画面とPIP(ピクチャーインピクチャー)の2つから選択可能。全画面表示の場合はピント位置がより見やすく、PIPの場合は全体の構図を確認しながらピント位置を追い込める。
この機能と組み合わせたいのが、ピントが合っている部分に色が付くピーキング表示だ。ただし、「LUMIX S 26mm F8」は被写界深度が深いため、シーンによってはピーキングの色がじゃまして被写体の表情や構図が見にくい場合がある。ファンクションボタンなどにピーキング表示を割り当ておいて、オン/オフを切り替えながら使うとよいだろう。
「東京」の文字を確認しながら、近接で撮影した1枚。被写体にぐっと寄りながら撮影する場合は拡大表示を使って慎重にピント合わせを行いたい
LUMIX S9、LUMIX S 26mm
F8、26mm、F8、1/50秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:Sample LUT3
2つ目のコツは、ピント位置を固定して撮影する方法だ。焦点距離26mm/F8という条件なので、ある程度距離を置いた位置にピントを合わせておけば、スナップ撮影では十分な被写界深度が得られる。それを生かしてノールック撮影を行うのも面白いだろう。モニターを見ずに感覚でシャッターを切っていると、意外な1枚に出会えることもある。
モニターを見ずにシャッターを切った。ノールック撮影は失敗も多いかもしれないが、予想できない構図に出会えるのが面白い
LUMIX S9、LUMIX S 26mm
F8、26mm、F8、1/125秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:Sample LUT2
以下の3枚の写真は、3mくらいの距離にピントを合わせておき、歩きながら目測でシャッターを切って撮影したもの。被写界深度が深いため、おおざっぱなピント合わせでも問題なく撮影ができた。ピント合わせの必要がないため、シャッターを押すタイミングや構図に集中できる。速写を生かしたスナップ撮影時におすすめしたい方法だ。
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/30秒、ISO2000、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:V-Log
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/30秒、ISO3200、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:V-Log
LUMIX S9、LUMIX S 26mm F8、26mm、F8、1/30秒、ISO2000、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:V-Log
まとめ 身軽に撮影したい場合にぴったりのシステム
今回、「LUMIX S9」に「LUMIX S 26mm F8」を組み合わせて台湾を撮影してきたが、軽量なので丸1日外に持ち出しても負担が少なく、軽快に撮影を楽しめた。得られる写真は解像感が高く、被写体に寄ることでボケを生かした表現も楽しめる。被写界深度の深さを生かしたノールック撮影も面白く、いつもと違った表現や撮り方を楽しめると感じた。
「LUMIX S 26mm F8は絞り値がF8固定のため、シーンによってはシャッタースピードが遅くなることもあったが、「LUMIX S9」は小型・軽量ながらボディ内手ブレ補正を搭載しているので心強かった。手ブレをそれほど心配することなく撮影できた。
「LUMIX S9」と「LUMIX S 26mm F8」の組み合わせは、スナップや旅行などでとにかく身軽に撮影したい場合にぴったり。フルサイズとしては機動力の高いシステムなので、スナップシューターとしてぜひ注目してほしい。
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