「X-T50」(2024年6月発売)と「X-T5」(2022年11月発売)は、富士フイルムのAPS-Cミラーレスカメラ「Xシリーズ」の人気モデル。価格.com「デジタル一眼カメラ」カテゴリーの人気売れ筋ランキングでは、ともに上位をキープしています。
「X-T50」は下位モデルで価格は19万円台、「X-T5」は上位モデルで価格は25万円台(いずれもボディ単体の価格.com最安価格、2024年8月30日時点)。機能性に違いはあるのですが、画質など共通している部分もあって、どちらを選んだらよいのか、わりと悩んでしまうところです。
そこで、本特集では両モデルを詳しく比較。それそれ、どういった使い方にマッチするのかを考えてみました。
右が下位モデルの「X-T50」で、左が上位モデルの「X-T5」
共通の撮像素子と画像処理エンジンを採用
「X-T50」と「X-T5」を比較するうえで初めに触れておきたいのは、両モデルは同じ撮像素子と画像処理エンジンを搭載しているということ。
具体的には、撮像素子が有効約4020万画素の「X-Trans CMOS 5 HR」で、画像処理エンジンが「X-Processor 5」。いわゆる第5世代の撮像素子と画像処理エンジンですが、これらはフラッグシップモデル「X-H2」に初めて搭載され、次いで「X-T5」にも投入。さらに1年半ほどの時を経て「X-T50」にも採用という経緯をたどっています。
「X-T50」が搭載する撮像素子と画像処理エンジンは「X-T5」と同じ
同じ撮像素子と画像処理エンジンであっても、モデルごとの最適化や発売時期の違いで多少の変更はあるかもしれませんが、「X-T50」と「X-T5」については、基本的に写真の画質は同等だと考えて差し支えないと思います。
スタイルは同じだが「X-T50」のほうがコンパクト
「X-T50」と「X-T5」は、ダイヤル操作を基軸としたセンターファインダー(一眼レフスタイル)のクラシックデザインを採用しているのも共通点です。
右が「X-T50」で、左が「X-T5」。同じクラシックデザインではありますがコンセプトは異なるようです
しかし、両モデルのサイズ感は大きく異なっています。これは共通点がありながらも、コンセプトを異にしていることを表しているのでしょう。「X-T5」のほうがひと回り大きい(とはいっても一眼カメラとしては小型・軽量な部類)のに対し、「X-T50」はより小型・軽量で取り回しやすさを意識して設計されているように見えます。
X-T50
サイズ:123.8(幅)×84(高さ)×48.8(奥行)mm
重量:約438g(バッテリー、 メモリーカードを含む)
X-T5
サイズ:129.5(幅)×91(高さ)×63.8(奥行)mm
重量:約557g(バッテリー、 メモリーカードを含む)
また、どちらかというとゴツゴツとした無骨なデザインでより本格感が強調された「X-T5」に対し、「X-T50」は、グリップ感を残したまま手に持ったときに収まりのよさが感じられるラウンド形状を採用しています。
操作性/機能性の違いを徹底チェック
続いて、「X-T50」と「X-T5」の操作性/機能性の違いを細かく見ていきたいと思います。
左肩に「フィルムシミュレーションダイヤル」を搭載する「X-T50」
「X-T50」の操作性で「X-T5」と決定的に異なるのは、カメラ上部左側に設置されたダイヤルです。
「X-T50」の左肩には、ほかのモデルにはない「フィルムシミュレーションダイヤル」が採用されています。富士フイルムのミラーレスを使ううえで醍醐味と言える「フィルムシミュレーション」を簡単に切り替えられるのが大きな特徴です。
「X-T50」は左肩に「フィルムシミュレーションダイヤル」を搭載。「フィルムシミュレーション」の切り替えを簡単に行えます
ダイヤルを回すだけでダイレクトに「フィルムシミュレーション」を変更できるため、非常にわかりやすい操作性です。「フィルムシミュレーション」をそれほど意識していなかったという人でも、これなら積極的に使ってみよう!という気になると思います。
「X-T50」の「フィルムシミュレーションダイヤル」の操作画面。ダイヤルを回すだけなので直感的でわかりやすいです
いっぽう、「X-T5」の左肩ダイヤルは従来どおりの「感度ダイヤル」。感度の設定は露出に関わる重要な設定項目ですので、露出を追い込んでシビアな撮影を重視したい場合は、こちらのほうが使いやすいと思われます。ある意味、玄人向けのダイヤル配置ですね。
「X-T5」は左肩に「感度ダイヤル」を搭載。感度をひんぱんに変更するのであればこちらのほうが使いやすいでしょう
なお、「X-T5」での「フィルムシミュレーション」を操作は、背面の「十字キー」の左を押したうえで(初期設定)、上下ボタン(またはフォーカスレバー)で目的の「フィルムシミュレーション」を選びます。慣れていれば問題ありませんが、初めてだとちょっととまどってしまうかもしれません。
「X-T5」の「フィルムシミュレーション」は、「X-T50」にはない「十字キー」で設定します。慣れていないとちょっとだけわかりにくいかも?
液晶モニターは同スペックで可動方式が異なる
両モデルの液晶モニターは3.0型/約184万ドットというスペックで共通していますが、可動方式が異なっています。
「X-T50」は上下チルト式を採用しています。好みの問題になりますが、バリアングル式でなく、横位置でのハイ/ローアングル撮影がしやすい上下チルト式なのは、個人的に好ましく感じています。
「X-T50」の液晶モニターは、横位置の撮影がしやすい上下チルト式
「X-T5」はというと、富士フイルム独自の3方向チルト方式を採用しており、横位置だけでなく縦位置でも光軸からモニターをずらすことなく撮影できます。撮影の自由度がより高い方式なのは、上位モデルらしいところではないでしょうか。
「X-T5」の液晶モニターは、横位置にも縦位置にも対応した3方向チルト方式
高性能な電子ビューファインダーを搭載する「X-T5」
「X-T50」の電子ビューファインダー(EVF)は、倍率が0.62倍で画素数が約236万ドット(0.39型)。アイパッドは用意されておらず、丸型で硬質な樹脂でその代わりとしているようです。「Xシリーズ」の他モデルでは「X-S20」と同じ仕様です。
「X-T50」のEVFは倍率0.62倍/約236万ドット(0.39型)
いっぽう、「X-T5」のEVFは、倍率が0.80倍で画素数が約369万ドット(0.5型)と高性能。ゴム製で広いアイパッドが用意されています。比べてしまうと、画面が広く精細で遮光効果も高い「X-T5」のほうが明らかに見え具合は良好です。
「X-T5」のEVFは倍率0.80倍/約369万ドット(0.5型)
シングル/ダブルスロットの違いがある記録メディア
両モデルとも記録メディアはSDメモリーカード(SDXC、UHS-IIまで対応)に対応していますが、機能性で上位モデルと下位モデルの違いが出ています。
「X-T50」はバッテリー室と同居のシングルスロット仕様。「X-T5」はカードスロットが独立したダブルスロットです。ダブルスロットですので「順次記録」「バックアップ記録」「分割記録」など高度な保存設定が可能です。
「X-T50」はバッテリー室と同居のシングルスロット仕様
「X-T5」はダブルスロットを採用しています
バッテリー交換なしで多くの枚数を撮れる「X-T5」
「X-T50」はバッテリーに「NP-W126S」を採用しています。容量は1200mAhとやや少なめ。撮影可能枚数はエコノミーモード時で約390枚とそれなりに撮ることはできますが、イザというときのために予備のバッテリーを用意しておきたいところです。
「X-T50」に付属するバッテリーは「NP-W126S」
「X-T5」は、「X-H2」などと同じ大容量バッテリー「NP-W235」を採用。バッテリー容量は2200mAhと「NP-W126S」の2倍近く多いため、撮影可能枚数もエコノミーモード時で約740枚と、よりたくさん撮ることができます。バッテリー交換なしでたっぷり撮りたいなら「X-T5」ということになるでしょう。
「X-T5」は大容量バッテリー「NP-W235」を採用しています
「X-T50」は内蔵フラッシュ搭載がありがたい
「X-T50」にあって「X-T5」にはないもの。それは内蔵フラッシュです。比較的エントリークラスのカメラに搭載されることの多い内蔵フラッシュですが、記録写真や記念写真を撮るときに重宝します。あればあったで便利ですので、「X-T50」を選択する場合には有効に活用したいものです。
「X-T50」の内蔵フラッシュ。ガイドナンバーは約3.9(ISO100・m)です
また、撮影モードとして「AUTOモード」が用意されているのも「X-T50」の特徴。レバーを「AUTO」にするだけでよいので、ダイヤルオペレーションによる設定に混乱してしまったときなどの助け舟になってくれるかもしれません。
「X-T50」は「AUTOモード」を利用できます。撮影モードダイヤルがあるカメラでいうところの、全自動モードである緑色のアレです
解像性能の違いをチェック
「X-T50」と「X-T5」は、撮像素子と画像処理エンジンが同じなので得られる画像も同じはず、というのは先に述べていますが、あるいはということもありますので、念のため同じシーンで撮り比べた写真で画質を確認してみたいと思います。
「X-T50」で撮影
X-T50、XF16-50mmF2.8-4.8 R LM
WR、22mm(35mm判換算33mm相当)、F5.6、1/75秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
「X-T5」で撮影
X-T5、XF16-50mmF2.8-4.8 R LM
WR、22mm(35mm判換算33mm相当)、F5.6、1/80秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
いずれも、有効約4020万画素の高画素を生かした、すばらしい解像感が画面の全域で見ることができます。絞り優先モードで撮影したのですが、同じ条件でも、どうしてもわずかな露出差が出てしまうのは個体差のせいでしょうか? それでも、解像感に関して「X-T50」と「X-T5」の違いを見つけるのは難しく、どちらも非常に高い解像性能を持ったカメラだということがわかります。
高感度性能の違いをチェック
高感度性能についても、撮像素子と画像処理エンジンが同じだけに、結果に違いはないだろうという予想のもとに比較を行ってみました。設定した感度は、高感度として使うことの多いISO6400を選択しています。ちなみに、常用の最高感度は両モデルともISO12800です。
「X-T50」で撮影
X-T50、XF16-50mmF2.8-4.8 R LM
WR、50mm(35mm判換算75mm相当)、F5.6、1/5秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
「X-T5」で撮影
X-T5、XF16-50mmF2.8-4.8 R LM
WR、50mm(35mm判換算75mm相当)、F5.6、1/5秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
いずれも、有効約4020万画素ということで画素ピッチはかなり狭いはずですが、撮像素子の技術進化や画像処理エンジンの処理技術の向上もあってか、APS-CサイズのISO6400としては十分に満足のいく結果が得られました。A4サイズやA3サイズ、あるいはそれ以上のプリントサイズにしても、十分鑑賞に堪える画質ではないかと思います。
ただし、同じ条件で撮影したはずですが、両モデルは写真の色味において結構な違いを見せています。これが日没時のわずかなタイムラグによるものなのか、(三脚を使用していたものの)ちょっとしたアングルの違いによるものなのか、それともモデルや個体差による違いなのかは、今回の試写ではわかりませんでした。それでも、ノイズの量や階調性の維持という点においては、どちらも同等の高感度性能を持っていると確信しています。
AF性能と被写体検出機能は同等レベル
「X-T50」は、「T-5」と同等の被写体検出AFを搭載しています。人物の顔や瞳はもちろん、「動物」「鳥(昆虫)」「クルマ」「バイク&自転車」「飛行機(ドローン)」「電車」といった被写体を自動的に検出・追尾してくれるため、「T-5」と同様、検出対象の被写体を容易に撮影できます。
「X-T50」と「X-T5」は、同じ機能性の被写体検出AFを搭載しています
AFのスピードや精度については、レンズ側のAF性能によるところが大きく、また同条件での比較が難しいこともあって、厳密なことは言えませんが、両モデルを使い比べた限りでは性能の差をほとんど感じませんでした。
「X-T50」 被写体検出機能「動物」で撮影
X-T50、XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR、50mm(35mm判換算75mm相当)、F4.8、1/50秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト
「X-T5」 被写体検出機能「鳥」で撮影
X-T5、XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR、42mm(35mm判換算63mm相当)、F5.6、1/125秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
非常に高いAF性能を求められるスポーツや野鳥の撮影は別ですが(そうした場合は積層型センサーを搭載した「X-H2S」がおすすめ)、それほど速く動くこともない被写体を対象とするスナップ撮影や風景撮影で使うのなら、どちらのカメラを選んでもAFに不満を覚えることはないと思います。
実写上の両モデルの使用感を比べてみる
「X-T50」で撮影
X-T50、XF16-50mmF2.8-4.8 R LM
WR、50mm(35mm判換算75mm相当)、F5.6、1/60秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド
撮り歩いていると小型でラウンド形状の「X-T50」が手になじみやすいことを実感できます。ファインダーの精細感は「X-T5」に譲るのは確かですが、実際にはそれほど気になるようなことはありません。自由度の高いダイヤル操作のミラーレス、それが「X-T50」だといった印象です。
「X-T5」で撮影
X-T5、XF16-50mmF2.8-4.8 R LM
WR、35mm(35mm判換算53mm相当)、F5.6、1/160秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
そうはいっても、クラシックデザインでダイヤル操作を存分に楽しみたいというのであれば、問答無用で「X-T5」になるのも事実。外装は両モデルともマグネシウム合金を採用していると思いますが、それでも「X-T5」に心地よい金属感を覚えるのは、細部までよく作りこまれた仕上げのよさによるものなのでしょう。
「X-T50」で撮影
X-T50、XF16-50mmF2.8-4.8 R LM
WR、35mm(35mm判換算53mm相当)、F8.0、1/60秒、ISO125、ホワイトバランス:10000K、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
富士フイルムならではの「フィルムシミュレーション」を存分に楽しみたいのなら、「X-T50」の「フィルムシミュレーションダイヤル」は頼もしい存在です。上の作例は、筆者お気に入りの「ノスタルジックネガ」で撮影しました。
「X-T5」で撮影
X-T5、XF33mmF1.4 R LM WR、33mm(35mm判換算50mm相当)、F1.4、1/750秒、ISO3200、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ACROS
「X-T5」の重厚感は、高性能な「レッドバッジ」ズームレンズや、大口径・単焦点レンズといった、それなりの重さのあるレンズとの相性がすこぶるよいと思います。この場合、画面の視野が広く、高精細なファインダー性能も生きてきます。やはり「X-T5」は高級なミラーレスなのですね。
まとめ サイズ感重視なら「X-T50」、操作感・高級感重視なら「X-T5」
「X-T50」と「X-T5」は同じ撮像素子と画像処理エンジンを搭載しており、得られる写真は基本的に同じです。とても高解像で階調性に富んだ上質な写真が撮れることでしょう。APS-Cサイズとしては高級モデルといえる「X-T5」と同じ画質を、中級モデルの「X-T50」に採用してくれたことはうれしい限りではないでしょうか。
「どちらを選ぶ?」という視点では少々の難しさを感じますが、初心者にもやさしい「AUTOモード」や、選択しやすい「フィルムシミュレーションダイヤル」、日常使いに適したサイズ感が欲しいのなら「X-T50」のほうが適しているでしょう。逆に、富士フイルムならではのダイヤル操作にほれて、最高の撮影感触と高級機としての安心感を体感したいのなら、文句なしに「X-T5」ということになります。
ボディ単体の価格.com最安価格は「X-T50」が19万円台で、「X-T5」が25万円台(いずれも2024年8月30日時点)。約6万円の差をどう感じるかはそれぞれの事情も絡んでくるところですが、「X-T50」には「X-T50」ならではのコンセプトが、「X-T5」には「X-T5」ならではのコンセプトが明確にありますので、あくまで自分の撮影スタイル、究極的には「好み」にあわせて選ぶのが正しいと思います。
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